クールビューティー

 

彼が日本に戻ってきて初めての夏。
それはそれまでのさくらの人生の中で最も光り輝いていた。
初めて恋人と呼べる人がいる。
去年は心を時めかせるには切ないほどの距離があって
そしてそれ以前は・・・
自分は別の人に片思いをしてた。

 

同じように流れていく季節の中で自分の気持ちはとどまる事を知らない。
でも、彼に対するこの思いだけは信じられる。
これから何回この季節が巡ってこようとも、たとえ彼の気持ちが変わる事があっても

(私は彼が好き。)

それは根拠の無い、けれどとても確かな心の叫びだった。
さくらは知らず知らず頬をピンク色に染めながら
バスターミナルへの道のりを急ぐ。
もうすぐ彼が帰ってくるから・・

 

********

 

長い休みには香港に帰るというのが小狼が日本に来る時の約束の一つだった。
そして夏休みを迎えると同時にそれは果たされ
二週間後の今日、漸く帰ってくる。
それはせつない距離を思い出させると同時に
自分が彼をどんなに好きか再確認させてくれた。
彼のいない世界は自分をセンチメンタルに変えてしまうから・・。
偽者の笑顔を振り撒くのもこれで終わり。

「おかえりなさい。小狼君。」

「ただいま。」

彼の顔に浮かぶ笑顔がさくらを幸せにする。
自分は今これ以上に無いほど嬉しい笑顔をしているのだろう。
荷物も殆ど無くラフな服装の彼は,とても香港からきた様には見えなかったが、
普段人前ではみせない笑顔を一層綻ばせて見つめる様子が離れていた時間を感じさせる。
これという言葉も思いつかないまま
ただお互いが側にいる幸せを噛みしめながら二人は歩き出した。  

*******

 

「見せ付けてくれるね〜。」

それが自分達に向けられた言葉と気づくのに数秒かかった。
気づけば前方に数名の影。
アロハシャツに身を包んだ一団はニヤニヤした笑いを口元に浮かべながら近付いてくる。

「可愛い彼女つれてるじゃん、僕。」
小狼は一言も返さない。
たちの悪いチンピラの集団に囲まれさくらもただ立ちすくむ。
中の一人がさくらの腕を掴もうとした。
その時すばやく小狼がさくらの前に自分の身を滑らせる。
こんな非常時でありながら、その様子はさくらに過去を思い出させる。

(そうだ。どんな時だって彼はこうやって庇ってくれた。
 シャドウの時もメイズの時も、いつだって・・)

「僕、邪魔するなんて勇気あるねぇ〜。」

チンピラの目が楽しい遊び道具を見つけたように残忍に光る。

「さくら、逃げろ。」

小狼が小声で囁く。

「でも、・・。」

「大丈夫だ。」

小狼の言葉にさくらは頷く。
彼は知っている。自分が人間相手に魔法を使えないことを。
大丈夫。彼は強い。
自分がいても足手まといになるだけだ。
さくらは走り出した。

 

追っていこうとする一人に小狼のとび蹴りが炸裂する。

「てめぇー!!」

怒った仲間たちが一斉に小狼を取り囲んだ。

「面倒だな。」

顔色一つ変えない、明らかに年下の彼の呟きに
敵は怒りを露にさせ踊りかかる。
だが、七つの影は数分後には地面に身体を投げ出されていた。

「くっそぉ〜!ガキだと思ってりゃぁ、いい気になりやがって。
 許さねぇ。後始末は任せろ。殺れ!」

ボス格の一人の呼びかけに七つの影達の手に銀色の刃が煌く。

 

 

さくらはフライを使うと小狼の見える高い木の上に降り立った。

(誰か呼んで来なきゃ。でも、ここからならウインディーを使えば・・・
 だけど、もし怪我をさせちゃったら、どうしよう。)

その時小さな風の渦と共に彼の声が流れてくる。

(手を出すな。もっと遠くへ逃げろ。)

彼の使った風華のメッセージにさくらは静かに羽を広げた。  

 

  *******

 

さくらが飛び立つのを感じると小狼は宝玉を取り出す。

「容赦はしない。」

封印を解かれた剣に彼の瞳が映る。
先ほどまでの穏やかな薄茶色のそれは今すっかり変化していた。
冷たい炎を宿したように暗く光りながら目の前の相手を射抜く。
きりっと結ばれた口元には一片の躊躇いも無い。
この時期の少年が持つ独特の美しさ。
それは時に割れたガラスの破片のように狂気を秘めている。

「な、何なんだ。こいつ。」

突然湧き出た宝剣よりも彼の廻りを包むオーラの色に
チンピラ達は恐怖を感じていた。
敵う相手ではない。
動物としての本能が危険信号を発している。
自分達は狩られる物なのだ。 ・・・逃げろ。逃げろ。逃げろ。・・・
狼の前に投げ出された小鹿の群れのように彼らは逃げ出した。

 

後に残された小狼は宝剣をしまうと大きく深呼吸をする。
今の自分は闇の世界の顔をしているだろう。
香港で李家の家督として生きるために培われた帝王学の一つ。
大切な物を守るために戦う事が当たり前の裏の世界。
どこまでも非常になりきること。
そしてそれを受け入れている自分。
いつかさくらに見せられる日がくるのだろうか。
そして彼女はそんな自分を好きでいてくれるのだろうか。

「さくら・・。」

 

 

歩き出した彼の先に愛しい影が映る。
「小狼く〜ん。」
彼女の存在を感じるだけで優しい気持ちが心に広がるのを小狼は感じていた。
駆け寄る二人の顔に元の笑顔が浮かぶ。

(お前がいれば大丈夫だ。)

彼の薄茶色の瞳が再び優しいきらめきを宿す。  

 

 END


本蔵咲乃様から頂きました!
以前[クールな小狼普及委員会]様の初代トップ絵を描かせて頂きまして
その後咲乃さんの[
Eternity]様へお嫁入りした小狼イラストに、
挿文として描いてくださった小説です!
絵はなんだか戦闘体制って感じだったんですが、それをこんなに素敵に激かっこよく
表現してくださって、もったいないくらいです!!!


さきのさん、本当にいつもありがとうございます〜!

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